アトアでは、異業種企業と連携して画像AIを活用した生きもの行動分析技術の開発に取り組んでいます。この度、株式会社神戸デジタル・ラボ(以下、KDL)と共同で取り組む実証実験の成果と進捗を、KDLが出展するグランフロント大阪アクティブラボの「大学都市KOBE!発信プロジェクト」ブースにてご紹介することになりました。
アトアは、アクアリウムとアートを融合した展示を展開する一方、生きものに関連する調査・研究・開発活動にも注力しています。飼育生物の行動から得られる情報は有用なことも多いのですが、細かく行動を記録していくには多大な労力がかかってしまいます。そこで、省力化かつより詳細なデータの集積を目指して、2023年4月1日からAIによる画像認識技術による飼育生物の行動分析システムの開発をKDLと共に、次世代を担うIT人材育成事業の枠組みの中で進めています。
■実証実験の概要
本実証実験の対象をカピバラとし、動物へのストレスと飼育環境への影響が少ないデータ取得方法を検討しました。天井部分にカメラを1台取り付け、日中の展示エリアの様子を動画として記録しています。動画データは一定時間ごとにカメラからクラウドに送られ、物体検出AIを活用した行動分析が行われます。動画から切り出した静止画(フレーム)にアノテーション(*1)を行い、機械学習(*2)と、AIモデル(*3)をチューニングすることで、展示エリアの動画に映るカピバラをリアルタイムに判別・追跡できるAIモデルの精度を達成。通常の飼育作業に一切の追加負担を生じることなく、カピバラの位置、移動距離、移動速度などの行動履歴をデータ化・可視化することができるようになりました。
本実証実験の現場環境の確認や検出しやすい動物の調査、AIモデル構築、アプリケーションの作成まで、すべての工程をインターンシップに参加する学生が主体となって実施しています。これまで神戸市内の4校・9名の学生がこの取り組みに参加し、水族館で実際に取得したデータを用いたモデル構築という実践的な開発を体験しています。
アトアで暮らすカピバラ |
カピバラの行動履歴を可視化した例 |
■グランフロント大阪にて展示
これまでの成果と進捗を、KDLが出展するグランフロント大阪アクティブラボの「大学都市KOBE!発信プロジェクト」ブースにてご紹介します。
展示期間 2024年12月13日(金)~2025年4月20日(日)
営業時間 10:00~21:00
場所 ナレッジキャピタル「アクティブラボ(ACTIVE Lab.)」3階
(大阪市北区大深町3-1 グランフロント大阪北館)
※入場無料。ご自由に見学いただけます。
※展示の内容については変更となる場合があります。
■取り組みの背景
アトアは2021年10月に神戸のベイエリアにオープンした都市型水族館です。生物の飼育・展示のほか、生物の保護・保全活動や環境整備を目的とした生態調査・研究にも取り組んでいます。飼育する生物の行動を分析し、飼育環境や展示の改善に繋げたいと考えていましたが、飼育員が通常業務を行いながら、生物を常に観察し行動を記録することは負担が大きいという課題がありました。
一方、地元神戸の人材育成および雇用促進の取り組みとして、インターンシップを受け入れてきたKDLには、より魅力的なインターンシップ環境を学生に提供したいという課題がありました。
本実証実験は、アトアとKDLの双方の課題を解決する取り組みとして、2023年4月に開始しました。アトアが目指す「飼育生物の生態観測」の実現に向け、KDLのインターンシップに参加する学生が、KDLエンジニアの指導のもと、AIおよびAIを活用したシステムの開発などを行っています。
センサーなどを体に付ける必要がないため、生物にとってストレスが少ない優しい計測環境を提供します。加えて、これまでセンサーを付けられず計測が難しかった生物のデータも取得することができます。
検証の様子
■今後の展望
さらに分析を進めることで、カピバラの行動の特徴や飼育・展示方法の変更による行動の変化などを読み取り、行動データを天気や気温などの別のデータと組み合わせることで新たな発見につながることが期待されており、最終的にはデータ取得から分析までを自動化を目指しています。
また、展示にも行動データを活かし、時間帯ごとにカピバラがよく居る場所をヒートマップ(*4)で表示する、来場者にアノテーションに参加してもらう、など来場者に楽しんでいただける企画を検討しています。
アトアとKDLは今後も、アトアが目指す「飼育生物の生態観測」の実現と、「AIに携わる仕事がしたい」と考える学生に向けたインターンシップ環境の提供を両立させる本実証実験を継続してまいります。
*1:アノテーション
AIの学習に使うデータをAIが正しく認識できるように加工する作業。物体検出の場合、画像に写る検出対象を長方形で囲い、タグ(目印)を付与して整理する。
*2:機械学習
コンピュータが、大量のデータ(教師データ)をもとに規則性やパターンを見つけ出して学習する技術。繰り返し学習を行うことで、予測の精度を向上させることができる。
*3:AIモデル
AIがデータを解析し、予測や判別を行うためのプログラム。画像データなどをモデルに「入力」し、モデルが入力されたデータを「解析」し、解析に基づいた予測や判別などの結果を「出力」する、一連の流れ。
*4:ヒートマップ
データに含まれる数値を、サーモグラフィのように色とグラデーションで可視化する手法。
株式会社 神戸デジタル・ラボ
デジタルビジネス本部 データインテリジェンスチーム 山口耕平、原口俊樹
E-mail:info@kdl.co.jp / 電話:078-327-2280